コラム

ID-POSマーケティング実践編第1回

コラム

「コラムを再開します~初回は振り返り」

 ID-POSデータ活用入門と題して2年間、隔週でコラムを書いてきました。20年12月に入門編としては最終回を迎え、1ヶ月休憩して再開しますとご案内したのに気づくと3ヶ月以上経ってしまいました…。この間、思っていた以上に多くの方から、特にお会いしたことのない方から「コラムを読んでいます。」と言って頂き、とても驚くと共に、継続的に情報発信することの大切さを身をもって理解することができました。
 わずか3ヶ月ですが、この間も2度目、そして大阪や東京には3度目の緊急事態宣言の発出など私たちの生活にも色々な変化がありました。こうした出来事はお客様の購買行動に多大な影響を与えています。その変化を捉える1つの手がかりがID-POSデータだと考えます。再開第1回の今回は21年1-3月のドラッグストアでのお客様の変化を因数分解で確認し、基礎編を振り返ることからスタートします。図1をご覧ください。

 過去のコラムでもご案内してきたように
 ・全売上金額=非会員の売上金額+会員の売上金額
 ・会員の売上金額=ユニーク人数×期間中の1人当たり購入額(来店頻度×客単価/回)
 ・客単価/回=買上点数/回×平均売価
と因数分解されます。分解する目的は大きくて複雑なものを小さくて単純なものに分けることで、見えにくい課題を明確にし、適切な対策を取ることです。
 全売上金額に占める会員の売上金額の比率は業態や立地によって異なります。同じ業態、立地で比べた時に会員比率が高い企業(店)は会員でいることの価値をお客様に理解頂いていると言うことができます。会員でいる価値には会員価格や累進のポイント付与など「経済的な特典」もありますが、先行予約やお客様のご意見を伺って改善に活かすお客様重役会の運営など「非経済的特典」もあります。
 さて、会員売上金額の前年比では94.4%と厳しい結果です。要因としてはユニーク人数の減少(95.9%)が大きく、また頻度もダウン(91.4%)しています。一方、買上点数/回は大きくアップ(107.8%)し客単価/回は上がっています。20年はうるう年で1日多かったこともありますが、主にマスク、消毒などの衛生品や紙類の備蓄確保を目的に、普段お店に来られない低関与の方も来店されていたことの反動と考えられます。
 さて人数が減った場合、どの性年代で?どの商圏で?(店舗の近くから?遠くから?)、どのランクの方が?減ったのかを掘り下げます。それによって対策が異なってくるからです。図2に性年代別のグラフ載せていますので見て下さい。

 これを見ると21/20年対比(オレンジの折れ線)では女性20代で100%である以外はすべての年代でマイナスです。中でも構成比の高い女性40~60代のマイナス幅は大きいことが分かります。20年はコロナ禍でしたので、19年とも比較しています(グレーの折れ線)。60代までの男性は19年対比では増えています。女性は20代では19年対比で増えていますが、それ以外の年代では落ち込んでいて、70代以上で顕著です。19年に比べても来店人数が減っているのは大きな問題と捉えるべきです。ここから何をすべきか、ですが、
  ① まずは中核支持層である女性40-60代の来店人数の回復を図る
  ② 増えた男性と若年女性の定着を図る
  ③ 女性70代以上の回復を図る(安心な買い物のための工夫を訴求、ECも含めた多様な選択肢の提供など)
  の順で検討していきます。
 次に来店頻度ですが、これもどの性年代で減ったのか?の掘り下げを行いますが、大切なことは毎週来て頂く方がどれくらい減ったのか?という視点です。我が店を支えて頂いているロイヤル顧客のお客様の1回の来店減は大きなインパクトを持ちます。例えばロイヤル顧客の月間の来店頻度が0.1回減少した、というとピンと来ないかもしれませんが、これはロイヤル顧客のうち、10%の方の来店が1回減った・・・・・・・・・・・・・・ことを意味しています。頻度が減ってもまとめ買いして頂くことでカバーできるのでは?との指摘もありますが、1回の買上点数の伸びは107.8%で1回の来店によるマイナスを補えるものではありません。来店頂くと元々の来店目的の品に加えて、思い出し購買やついで買いが起きるためです。
 そしてより重要なのは来店が減ることでお店への関心(関与度)が低下し、来店の習慣が失われてしまうことです。スーパーマーケットであれば、その時期特有の旬の美味しい商材やそれを活かしたお惣菜に触れる機会が減り、ドラッグストアであれば、元々購入頻度の少ない季節商材を買うタイミングを失してしまう可能性があります。期間限定のプロモーション売場やイベントなども気付かずに終わっていた、ことになりかねません。
 基礎編でも触れたように、来店頻度とは来店目的の積み重ねです。我が店で買おうと考えるカテゴリーがどれだけあるか、購入カテゴリーの幅を広げることが頻度アップにつながる道です。勿論、消耗頻度の高い日常のお買い物がお客様にとって満足いくものであることが前提になります。欲しいものが欲しい量、欲しい値段で探し易く買えることです。余談ですが、筆者の自宅近くのスーパーマーケットでは売場の見直しがある度に家族の好きな1個入りのあんまん、肉まんの位置が大きく変わります。今回の改装でもまた見つからなくなりました…。売場はどこかを忙しいスタッフさんにお聞きするのも申し訳なく、探すのをあきらめて、ECで買うようになってしまう、のも納得です。
 ということで、次回からいよいよ、実践編に入ります。