コラム
IDPOSデータ活用入門 第3回
「IDPOSで測る顧客のロイヤルティ」
前回まででIDPOSデータとPOSデータの違い、IDPOSデータで何が分かるのかを述べてきました。今回はIDPOSデータを用いた顧客ロイヤルティ分析の考え方を説明します。顧客のわが店へのロイヤルティ(支持の度合い)をどのように測るのか、「他の方にお勧めするか」という調査を行う等、色々な考え方がありますが、数値化して継続的に把握する観点から、ここでは1人当たりの「期間」購入額を取り上げます。期間は業態によって異なり、来店頻度の低い業態では1年で測りますが、スーパーマーケットのように来店頻度の高い業態では月間で測ります(年間も併用)。
まずは図1に示すように、売上金額を非会員の売上と会員売上に分け、会員の売上を顧客視点で因数分解します。全売上金額に占める会員売上金額の比率は、業態によって異なりますが、スーパーマーケットやドラッグストアのような最寄り業態では70%を1つの基準として捉えて下さい。勿論、繁華街、駅前立地などではこの限りではありません。
ある月の会員売上はその月に1度でも来店された顧客の「ユニーク人数」と顧客・1人当たりの購入額の掛け算となります。1人当たりの購入額は月間の来店頻度と1回の買い物単価に分けられ、更に1回の買い物単価は1品単価と1回の買上点数に分けられます。ここでのポイントはユニーク人数です。これは月間、10回来店されても20回来店されても1人は1人という数え方です。10回来店者を10人と表すのは延べ人数となります。本コラムで人数と言ったときはユニーク人数を指すことにご留意ください。
ユニーク人数にすることで商圏内に住むお客様の何割に来店頂いているのか(来店者率)、1人当たりのお財布シェアを算出することができます。世帯の年代構成によりますが、2人以上の世帯での1ヶ月の食料品支出額(外食を除く)は平均で4万円強と言われています。スーパーマーケットを例にとれば、もし、わが店の一次商圏のお客様の月間購入額が2万円なら、一次商圏に住むお客様の支持率(お財布シェア)は約50%ということになります。
また、ドラッグストアの主力カテゴリーである、ヘルス&ビューティケアの世帯支出額は年間10万円と言われています。あるドラッグストアの1人当たり年間購入額が4万円の場合、お財布シェアは40%であることを意味しています。
因数分解の目的は売上を構成する要素を細かく分けて、要素ごとの対策を練ることにあります。同じ売上が横ばいと言う結果でも、ユニーク人数は減ったが1人当たりの購入額が増えた、というケースとユニーク人数は増えたが1人当たりの購入額がダウンしたケースでは対策が異なります。各項目を上げる考え方は図2に示しました。
まず、人数を増やすには会員でない方を会員化することがありますが、会員の構造を正しく把握することが前提になります。お客様は会員になって頂くとずっとわが店に来店し続けて頂ける訳ではなく、一定の割合でお店離れ、いわゆる離反が起こります。いくら新規会員を獲得してもお店に魅力がなく、離反してしまうようでは、常に新規を取り続けなければなりません。そうした場合に行うべきは、先に離反防止対策です。
離反防止については次回述べるとして、今回は新規獲得を説明します。新規獲得には会員になること、会員でいること、のメリットを分かり易くお伝えすることが大切です。会員のメリットには会員価格やポイントを差し上げると言った「経済的特典」と「非継続的特典」があります。経済的特典は分かり易いですが、常に競合店との兼ね合いであり、わが店がポイント2倍の際に競合店がポイント3倍を打ち出すと次回はポイント5倍で対抗、のようにポイント合戦になりかねません。ポイントN倍に惹かれて来店された方はお店にロイヤルティを感じているのではなく、ポイントに対する仮のロイヤルティに過ぎません。そのため、非経済的特典も組み込むべきです。これは会員様だけが参加できる親子料理教室、体験ツアーや健康(子育て、介護)相談会などのイベントや企画、お得意様のご意見を店長などトップがお伺いする、「お客様重役会」など、会員との「絆」を深めるための施策になります。これらの非経済的特典は会員申込用紙では説明しきれないので、店内のポスター掲示やSNS等を通じて積極的に発信していきます。
会員でない方を会員化する際にはお店の特長や魅力を示す手配りビラを用意し、入会プロセスを簡便化すること、次回以降の来店で利用できるクーポン(できれば数回程度利用できる)をお渡しすることなどに留意します。買い物行動の定着には3ヶ月がかかると言われており、新規に会員になってから3ヶ月継続来店頂くための後押しが必要なのです。お店の特長はどこよりも注力している点を一言で表し、店長やスタッフの紹介、定例販促(曜日別や月に1回の××の日など)、こだわりの商品群をお勧めの理由をつけて紹介します。
前述のように最寄り業態では会員売上が全売上の70%になることを1つの基準として捉えますが、新規に会員を獲得するだけでなく、維持育成を図る活動も重要です。離反防止の対策、また、売上を因数分解した残りの要素、来店頻度、1回の買上点数、1品単価について次回述べていきます。