コラム
IDPOSデータ活用入門第6回
「IDPOS因数分解を用いたカテゴリーの課題定義」
今回は小売業の取引先(メーカーや卸売業)が、小売業に提案する際の考え方と、IDPOSデータを用いたカテゴリーの課題定義について説明します。
ご提案に際して重要なのは「小売業との協働を意識する」ことです。
協働とは小売業とメーカー・卸で共通の課題認識をもち、目標設定・進捗管理を共有するプロセスです。
何故、この考え方が重要なのかと言いますと、売り込みたい自社ブランドだけを伸ばす提案では結果的に競合ブランドから奪っても1が1になるだけで、カテゴリー全体としての売上は上がらないことが多いからです。次は自社ブランドが取られる番となり、消耗戦に陥る事も想定されます。こうした独りよがりの提案では小売業が抱えるカテゴリーの課題解決につながらず提案を受け入れて頂く事も難しくなると考えられます。
まず小売業が抱えるカテゴリーの課題は何なのかを明確にし、自社ブランド(商品)がその課題の解決にどう貢献できるのか、を意識した提案を心がけます。
例えば、カテゴリーの売上がダウンしているが、その要因は若年層を中心としたカテゴリー新規購入者が減っているため、と分析されたとします。この時、自社ブランドの支持年代層が若年層で、初めてカテゴリーを購入する際の新規の入り口アイテムになっているという分析結果があれば、自社ブランドを強化(新規の人が購入し易い時期にチラシや露出アップ)するによりカテゴリーの課題解決に貢献できることになります。
協働を進める際のプロセスは以下の通りになります。
① 小売業の戦略・課題・バイヤーの考え方の理解
② カテゴリーの課題定義 ※データ分析※
③ カテゴリーを構成するサブカテゴリー・用途機能・ブランド等の課題定義
カテゴリー課題解決のための仮説構築
④ 企画提案 目標とKPIの設定
⑤ 実行 品揃え/棚割り/売場作り/販促
⑥ 効果検証と改善提案 ※データ分析※
データ分析を行う前の前提として、まずは小売業の戦略・課題・バイヤーの考え方を把握する事が必要になります。小売業の進む方向性・バイヤーの考え方を理解したうえでIDPOSを用いデータ分析を行っていきます。
分析を行う際、最初にすべき事は自社ブランドの分析ではありません。上記で述べましたがまず小売業が抱えるカテゴリーの課題を明確にする必要がありますので、最初にすべき事は「提案ブランドが属するカテゴリーの課題を定義する事」になります。
このカテゴリーの課題を定義する際に有効なのが「人」視点での売上の因数分解(売上の構成要素ごとに分解をする)になります。
第1回コラムでPOSとIDPOSの違いを述べましたが、「人」視点を用いる事で売上の構成要素をより細かく分解できるので、カテゴリーの状況・抱える課題を明確にすることが出来、対応する施策を組み立てる事が出来ます。
POSデータでは売上金額は「売れ個数」と「平均売価」の2つの要素に分解出来ますが、IDPOSデータでは「ユニーク人数」「期間中の購入頻度」「1回の買上点数」「平均売価」と4つの要素に分解する事が出来ます。
この因数分解によって、課題発見・対応施策の検討をより的確に行う事が出来ます。
図1にも示していますが、カテゴリーの因数分解を行ったら、次にサブカテゴリー(歯磨きカテゴリーであれば、虫歯予防歯磨き・美白歯磨き・歯周病予防歯磨きなど)、価格帯別などにドリルダウンをして更なる課題の掘り下げを行っていきます。
その後、ブランド(自社ブランドだけではなく競合ブランドも併せて)の因数分解を行います。
具体的に歯磨きカテゴリー(1年間)を例にカテゴリーの因数分解をしてみたいと思います。図2をご確認下さい。
歯磨きカテゴリーの売上の構成要素を確認すると、買上率は55.7%、購入頻度は3.0回、1回あたり買上点数は1.2個、平均売価は379円と分解する事が出来ます。
買上率55.7%というのは来店者100人あたり約56人が歯磨きカテゴリーのいずれかの商品を購入したという事になります。
(*買上率については第7回コラムにて詳細説明をしますが、期間中来店した人のうち、特定カテゴリーやブランドを購入している割合を表します)
購入頻度3.0回というのは1年間に平均3回(4か月に1回)歯磨きカテゴリーを購入している事を示します。
1回あたり買上点数1.2個というのは1回あたりの購買で平均1.2個歯磨きカテゴリーの商品いずれかを購入している事を示します。この値が高いほどまとめ買いされる傾向が高い事を表しています。
歯磨きカテゴリーの金額前年比は100.4%と微増という状況となっています。この微増というのは何が要因なのかを掘り下げてみたいと思います。
購入頻度・1回あたり買上点数・平均売価は前年よりも上昇傾向にありますが、買上率(人数)は昨対比98.2%とダウンしている事が読み取れます。歯磨きカテゴリーの売上はわずかに伸びているが、課題としては買上率の落ち込み(購入者が減ってしまっている)という事が因数分解から挙げられるかと思います。買上率(人数)が課題であるので購入者を増やす事が求められます。
得られた課題に対する考えられる打ち手等については、第7回コラムにて述べたいと思います。