コラム

IDPOSデータ活用入門第9回

コラム

「性年代別買上率とは」

今回は、「買上率」を性年代で掘り下げる手法、性年代別買上率分析の考え方・注意点をご説明します。
 あるカテゴリーもしくはブランドの買上率に課題がある時、まず行うのはどの性年代に課題があるのかを見極めることです。そのためには小売業にとっては自社の、メーカーから見ると提案先小売業の性年代別データを「市場データ」と比較することが必要です。
市場に比べて若年層が弱い、シニア層は強い、という分析から対策を検討するわけですが、この重ね合わせを人数構成比で行うケースが多いようです。
Aブランドは市場では20代女性の構成比が10%あるのに、自社(メーカーから見ると提案先の)小売業では5%しかなく、ギャップが5%もあり課題である、という分析です。
しかし、その小売業の商圏では、シニア層の来店人数構成比が高く、全体の人数構造に引っ張られて、Aブランドの20代女性の構成比が低くなっているだけかもしれません。
そもそもスーパーマーケット(SM)とドラッグストア(DR)でも、また同じSM業態でも商圏や立地によって来店人数の構成比が異なっており、それを同じ基準で比較するのは無理があります。
 また、Aブランドの販促効果を検証するために前年の人数構成比と比較した場合、どの年代も満遍なく人数が増加した場合は構成比に変化はありません。
さらに、例えば20代女性でAブランドを購入した人数が前年から伸びたとしても、そもそも20代女性の来店人数自体が伸びていた場合は、施策の効果で20代女性の購入が促進されたとは言い切れず、正しい施策検証ではないと考えられます。

 そこで、構成比を補完する指標として、性年代別「買上率」を利用します。Aブランドの性年代別買上率は、
 特定性年代でのAブランド購入人数÷特定性年代の来店人数
 ※購入人数、来店人数ともユニーク人数※

で計算します。20代女性が100人来店する時に、何人がAブランドを購入するか、になりますので、来店人数の年代ボリュームの違いに影響されることはなく、さらに前年との比較も来店人数の増減の影響を考慮せずに比較することができます。
 20代女性におけるAブランドの買上率が市場データでは20%なのに対し、提案先小売業が10%であれば、それはギャップとして各年代の買上率ギャップから買上率を伸ばす余地を確認することができますし、前年との比較で施策効果をターゲット年代の買上率の増減で検証することもできます。
 性年代別買上率を用いて支持年代層を確認してみましょう。

性年代買上率

カロリーメイト剤型別 性年代買上率(図1)

上図のカロリーメイト・ブランドでは、ブロック、缶、ゼリーという3つの剤型の違いにより支持年代層が異なることが確認できます。
ブロックは20-40代の男性や女性30・40代が支持しているのに対し、缶は男女シニア層に支持されています。
ゼリーは男性では幅広い層、女性では50代がピークです。同じブランドでも剤型によって支持年代層が異なることから、棚割り時に缶はシニアの手が届きやすい位置(一般的にゴールデンゾーンよりも1段下)に配置し、さらに介護補助食としての栄養源となることやシニアにとって飲みやすい、といった特徴をPOPで訴求することが考えられます。
一方、若年男性が支持するブロックは若年男性が立ち寄る売場(飲料・アルコール、惣菜売場など)でクロス展開することも有効と考えられます。
 性年代別買上率により、開発した際のブランドコンセプトと店頭での支持年代層が合っているのか、ずれているのかを確認することもできます。
ブランドコンセプトで設定したターゲット年代の買上率が伸びないのであれば、ターゲット年代が立寄る売場で気付きを与え、また未購入者に絞り込んだ施策(ハンドビラ、レシートクーポン、デジタル販促)も考えられます。
 カテゴリーの性年代別買上率からカテゴリーの特徴や課題年代の抽出ができ、さらにサブカテゴリーやブランドの性年代別買上率から支持年代を確認することで、有効な商品MD・棚割り構築の検討ができます。

性年代買上率

ヘアケアカテゴリ― 性年代買上率(図2)

 性年代別買上率を確認する際には代理購買に注意する必要があります。上図のヘアケアカテゴリー(シャンプーやコンディショナー・トリートメント)では、男性は20代の買上率が最も高く、年代が上がるにつれ買上率はダウンしています。
男性30代以上がヘアケアカテゴリーの商品を使用していない訳ではなく、男性20代は単身割合が高く自身で購入する割合が高いためと考えられます。女性の買上率がピークである30・40代は自分用に加えて、男性用・子供用などの家族分を購入(代理購買)していると考えられます。
 年金支給日に60代以上のベビー用オムツ買上率が高くなる例は孫消費と想定されますし、女性40代でジュニア用プロテインの買上率が高いのも子供のために購入していると考えられます。実際の利用者だけでなく、ショッパーは誰かを考え、ショッパーに訴求するメッセージ作りが大切です。

 最後に、性年代別買上率を分析する前提として、カード会員の属性がきちんと登録されていることが必要です。性別・年代不明の会員比率が高い場合、性年代買上率の結果は一部の会員の結果にすぎませんので、これをMDに活かすにはリスクがあります。
一般的に性年代判明率は70%以上が望ましいです。小売業はカード入会時の属性記入をお客様へ協力していただく工夫や店舗スタッフからの声掛けが不可欠と言えます。

次回、第10回目のコラムでは「買上率を伸ばす為に必要な5つの着眼点」について述べたいと思います。