コラム
IDPOSデータ活用入門第12回
「買上率を伸ばす為に必要な5つの着眼点 ④新規の獲得」
前々回から、買上率を伸ばす時の着眼点についてご紹介しています。今回は4つ目の視点「新規の獲得」をご説明します。ボディソープの因数分解からの課題は、カテゴリーの買上率がダウンしたことでした(前年比98.5%。第10回コラム参照)。この時、ボディソープを「新規」に買う人が減ったのか?「継続」して買う人が減ったのか?両方とも落ちたのか?を掘り下げる訳です。
ここでいう「新規」は、ボディソープ・カテゴリーをある期間に初めて購入する、「カテゴリー新規」の獲得を意味しています。つまりお店には来ているのに、対象カテゴリーを買っていない人に如何に売場に来て頂いて買って頂くか、ということです。似た言葉に、ある商品、ブランドを初めて購入するという意味で「ブランド新規」という用語もあります。メーカーが小売業に営業する場合、自社ブランドのスペースを拡大し、販促を打って「ブランド新規」をいかに獲得するかに意識を向けがちですが、ブランドAをブランドBにスイッチさせてもカテゴリーの買上率は変わりません。小売業のカテゴリーの課題の解決には「カテゴリー新規」への取り組みが欠かせないのです。さらに、カテゴリーの買上率は上がっていたとしても絶対値が低い場合、少ない購入者に継続していただくだけでは拡大は望めないため、カテゴリー新規の獲得策も併せて検討すべきです。
「新規」が落ちたのか?「継続」が落ちたのか?を検証する方法は、購入者を新規購入者・継続購入者に分けて、その人数、金額を前年と比較した増減で新規者・継続者のどちらに課題があるのかを確認します。この時、新規者のダウンが顕著であれば「カテゴリー新規」の獲得施策を検討します。
「新規」というと、「これまで一度も購入していなかった新しいお客様」がまず頭に浮かびますが、分析では直前の“一定期間”に購入していなかった方を「新規」と定義します。この未購入だったかどうかを判定する期間は、1年間の因数分解の頻度を目安に設定するとよいでしょう。ボディソープ・カテゴリーの1年間の平均購入頻度は3.3回でしたので(第10回コラム参照)、判定期間は3ヶ月程度がよいと思われます。医薬品の場合は1年ないしは2年、食品は消耗頻度が高いので1ヶ月(長くても3ヶ月)を目安としてください。
購入者の内訳を確認すると、カテゴリーによって、継続者の割合(継続率)が高いカテゴリーもあれば、新規客の割合(新規率)が高いカテゴリーもあります。新規率が5割を超えるようなカテゴリーでは新規獲得に比重を置く必要があります。
買上率改善のためにカテゴリー新規を獲得しよう、となった場合、次に考えるべきは、新規の方の入り口、すなわちカテゴリー新規の方はどの商品から入るのか、です。それが分れば、新規の方が買うタイミングでその商品をチラシに掲載したり、露出を上げて購入に導くことになります。
最後に、新規の入り口である低価格帯の商品を打ち出す際には、既存顧客のランクダウンにも注意が必要です。実際にあった事例ですが、
図1は、新規の方がよく購入する単品のリストの例です。これはカテゴリー新規の方の単品別購入人数の順位と、カテゴリー継続の方の順位を比較して順位差から求めています。
年代ごとに、カテゴリー新規の方が購入する商品(カテゴリーの入口になる商品)が異なることが分ります。どの年代にも出現しているのはトライアル品で、初めは小容量から入ることが推定されます。ボディソープの年代別使用率と買上率のギャップが大きかったのは女性の若年層でしたが(第10回コラム参照)、女性の若年層の新規の入り口で特徴的なのは「泡」タイプです。「泡」タイプを適切に訴求することで若年女性の新規客を獲得できると考えられます。このように年代・セグメントに合わせてお勧めする商品を変える工夫も必要です。
また、カテゴリー新規の獲得には新商品や季節商品の導入期の強化も有効です(季節品の分析は別の回で詳しく紹介します)。カテゴリー新規を獲得できる商品や新商品などは売場での露出アップ、チラシやモバイルツールを活用し店舗への誘導を図ります。
とはいえ、カテゴリー新規の方が購入する商品を店頭に並べただけでは不十分です。新規の方はどのタイミングで購入されるのか、どのようなメッセージを伝達すべきか、も検討します。たとえばボディソープの季節指数を見てみると、ボディソープ全体の売上が高まるのは7~8月です。夏は汗をかきシャワーを使う機会が増えるためだと考えられます。剤型別では構成比の高い液体タイプは全体と同じような動きですが、泡タイプの需要のピークは12月にあり、全体の売上が落ち始める10月から伸びはじめることがわかりました。
では、なぜ冬に泡タイプのニーズが高まるのでしょうか。購買データから特性や嗜好性を読み取るプロファイリングをしたところ、「敏感肌/肌トラブルを抱えている方」と「乳幼児がいる方」が浮かび上がりました。「敏感肌/肌トラブルを抱えている方」は冬時期の乾燥に悩み、泡タイプの保湿効果を期待して購入するのではないかと考えられます。
若年女性のうち、乳幼児のいる子育てママは新規の入り口である「泡」タイプをお子様の肌ケアのために購入している可能性があります(泡で出てくるのでこすらなくてよい)。乾燥が気になる季節に若年女性が情報を求める媒体で、「泡」タイプのボディソープを訴求するのが新規獲得に効果的でしょう。買っていない人は元売場に行っていないので、売場に行って頂く施策も必要です。子育てママ層に向けてはベビー用品売り場で気付きを与えることが考えられます。
以上をまとめると新規が落ちている場合は、新規の方のプロファイリングを行い、購入するタイミングに、入り口となる商品を、ターゲットが好む媒体を通じて紹介し、売場に来て頂く、という流れになります。