コラム

IDPOSデータ活用入門第17回

コラム

「IDPOSを用いた基礎化粧品の分析アプローチ~その4」

 基礎化粧品を題材にIDPOS分析の流れを説明する4回目、今回から既に基礎化粧品を購入いただいているお客様にどのようにアプローチしていくかを説明します。
B. 既存客の深堀
B-(1) ご愛用者への感謝
 まずは、基礎化粧品のご愛用者、即ち「継続して」基礎化粧品の「複数美類」の「本体」を購入している方への取り組みです。お店でお勧め或いはご自身で選択された化粧品が肌に合っていて、そのブランドやメーカーが好き、という満足して使用されているお客様です。ご愛用者の定義は色々ありますが、年間の購入額に加えて、購入されている美類の幅、そして継続年数も考慮します。長年、特定ブランドをシリーズ使いしている、お客様に対しては、今まで築き上げたお店、メーカーとの「信頼感」「安心感」といった目に見えない「絆」をより強固なものとするご提案がポイントとなります。まず「長期に渡りご愛顧いただいていることへの感謝の意」を示します。その上で「あなただけ限定で特別なご案内」をお送りしますが、優良顧客限定のクーポン施策やポイント感謝施策、お店とメーカー共催のイベントへのご優待といった経済的特典に加え、非経済的な特典をプラスします。例えば、季節の変わり目や新製品発売に合わせた、優良顧客専用の肌診断、個別相談会の実施、その先行予約などが考えられます。ご愛用者プログラムを検討する時はお客様との「絆」を深めるのに役立つのか、という視点を大事にします。
 長年ご愛顧いただいたブランドも年齢や環境の変化で切り替えのタイミングがやって来ます。この際、適切な卒業先ブランドをご提示することも大切です。

B-(2) 現購入者の深耕
 次にB-(1)のような最優良顧客ではないけれど、基礎化粧品はある程度購入しているという方へのアプローチが、現購入者への深耕です。実はこの層が最も人数ボリュームが多いと思われます。その方の関与度を上げる以下の3つのご提案を適切な時期を選んで進めます。

① 新規の入り口からの誘導
 基礎化粧品では、新規獲得を狙い、代表的な美類を1週間程度試すことのできるトライアルセットを用意することがあります。ブランドを切り替える前に自身の肌に合うかを確認する目的で購入し、気に入れば本体を購入頂くことを想定しています。但し本体よりコストパフォーマンスが良いことからトライアルセットを何度も購入して本体購入しない若年層や、気になる新製品を試すだけという新商品好きの方が多いのも特徴です。そのためトライアルセットを販売する際には本体購入に繋げる施策を必ず用意します。あるブランドでは化粧水、乳液、美容液がセットになったトライアルセットの購入者が半年以内に本体を購入する割合は2割弱に留まっていました。トライアルは通常3日分、1週間分と期間が明記されているため「次の一手」のタイミングが計りやすく、トライアル購入後にMAツールを用いて、お肌の状態を確認し、本体をお勧めするアプローチが可能です。上記のブランドではトライアルから本体に進んだ購入者のうち、化粧水の本体購入者が70%、美容液、乳液がそれぞれ50%と化粧水への波及効果が高い結果になりました。そのため、トライアルセットに化粧水の本体購入時のポイントインセンティブを付与することになりました。
 毎年開催する新規獲得キャンペーンに反応された方へのアプローチも同様で、その後の肌の状態を確認した上で併用頂くとより効果的な美類をプラスでお勧めします。それが2つ目のご提案です。

② 美類1~2種類に留まっている人の使用品種幅を広げる
 ブランドにより異なりますが、一般的な基礎化粧品美類のうち、買上率、リピート率共に高いのは化粧水と洗顔料です。そのブランドのメインの美類のみの使用に留まっているお客様に他の美類をお勧めしシリーズ使いに導くのが2点目のアプローチです。それでは、化粧水を購入する人は他にどの美類を併買する傾向が高いでしょうか?美類別併買率は流入流出分析の応用で算出します。分析手法の詳細はコラムの後半で記述しますので、ここでは分析結果をどう読むか、だけに注目下さい。

 図1はある敏感肌用ブランドの美類別併買率を示しています。美類別の買上率では化粧水が最も高く(0.44%、来店者1,000人の内4人が購入する)、続いて洗顔料(0.3%)となっています。化粧水を購入する人を横に見ていくとメイク落としの併買率が20.4%、洗顔料が24.7%、乳液が37.1%です。一般的にお手入れの際、次に使う美類の併買が高い傾向にあるため(メイク落とし→洗顔料→化粧水→乳液もしくは美容液)、買上率の高い化粧水購入者には乳液の併用をお勧めするのが最も効率的ということになります。ただ併買率が高いといっても37.1%ですから、化粧水購入者の約2/3の方は乳液を購入していません。こうした方に乳液のサンプルをお渡しする際には効果的な使用法をお伝えし、効果実感頂くことで本購入につなげていきます。
 またこのブランドのフェイスクリームを買ってくれる人を探したい場合、フェイスクリームを縦に見ていきます。最も高いのは乳液からで24.3%、次いで化粧水から23.7%併買されています。乳液を買っている人にフェイスクリームをお勧めするべき、となります。
 買上率が高い、即ち、多くの人に必要でありブランドのメインである美類を最初にお勧めし、次にその美類とよく併買される美類をお勧めすることで品種の幅を広げて固定化を図る訳です。3つ目のご提案は、一度購入頂いた商品を適切なタイミングでリマインドし再購入に導くことです。

③ 直近2~3か月でリピートが無い方にリマインド
 化粧水や乳液はどのくらいで1本使い切るでしょうか?使用量は個人差がありますがメーカー推奨の量を守っていれば化粧水で1~1.5か月、乳液で2か月程度が目安になります。化粧水を購入して約2カ月経過しているとそろそろ使い切る頃になります。その少し前のタイミングでMAツールを用いて、お肌にこんな変化は起きていないかを確認して来店を促し、②で説明したようにまだ使っていない美類や新製品のサンプルプレゼントのお知らせが届くという仕組みがあれば、リピート購入率や品種幅拡大の可能性が高まるはずです。
 このように、新規を獲得したら、適切なタイミングで次回購入を働きかけ、品種を広げて固定化することが基礎化粧品拡販のポイントになります。IDPOSデータベースやMAツールを適切に運用することでお客様のロイヤルティ向上を図ることが可能になります。
 次回は「C.離反客の呼び戻し」についてご案内します。