コラム
IDPOSデータ活用入門第29回
「2019年10月の増税」
今回はこれまでと少し視点を変えて、2019年10月の増税の分析を取り上げます。図1はドラッグストア業態での19年9月と10月の売上の因数分解です。
9月の売上は昨対で122.1%と大きく伸びましたがその要因は来店人数が増えたこと(103.1%)もありますが、1人当たりの購入額が増えたこと(118.4%)の影響がより大きく、そしてそれは頻度が上がったこと(103.9%)よりも1回の買い物金額が上がったため(113.9%)、と考えられます。来店されたタイミングでいつもよりも高めの(108.1%)商品(高価格帯や大容量のもの)を多めに(105.4%)買われたことが分ります。
一方、10月の売上は大きくダウン(89.3%)していますが、これは来店人数のダウン(94.7%)と購入額のダウン(94.3%)の影響が拮抗しています。買上点数は前年並みですが売価が下がり、頻度も減ったのです。
次に9月に購入額を増やしたのはどの性年代の方で何を買ったのか?を調べてみます。図1のグラフにあるようにどの性年代も購入額がアップしていますが、特に20代と70-80代のシニア層で顕著です。年金世代では生活防衛意識が高いことがうかがわれます。
9月に何をよく買ったのかは図2を見て下さい。昨対で売上金額がアップしている順に表にしていますが、1位はUVケアです。これは増税駆け込みというよりも9月は全国的に気温が高かったことの影響が考えられます。22位の殺虫剤も同様です。表にはありませんが9月の前後半どちらで伸びたかでは前半に伸びており、買う人は増えましたが1人当たりの数量は余り伸びていないことからも気象の影響の方が大きいと推察されます。
全体に上位には化粧品、中でも基礎化粧品が目立ちます。9月は乾燥が気になり始める季節であり、乳液、フェイスクリーム、美容液など高単価で保湿用の化粧品が良く買われています。メイクアップではファンデーションと化粧下地が伸びています。単価が高いアイテムでは、2%の差がお財布に直結するのでしょう。
また毎日使う紙類(ティッシュペーパー、トイレットペーパー)も伸びています。14位の軽失禁用品では買う人も買う数量も伸びていますが、48位の生理用品は買う人の伸びよりも1人当たりの数量の伸びが高く、まとめ買いされたことが分ります。多くの方に必要で(買上率が高く)、1人当たりの数量が伸びたカテゴリーは需要の前倒し(先食い)が起きており、10月以降はその反動が起きることが予想されます。日用品では洗剤類(住居用、衣料用、台所用)も伸びています。特大サイズの詰替えがあるライト系洗剤、台所洗剤、衣料洗剤などは売価も上がっています。衣料用洗剤の売価アップは高機能新商品の影響もあります。
医薬品で特に伸びているのは、ビタミン剤をはじめとする高単価商品、ドリンク剤で、治療というよりも継続して服用し症状を改善するカテゴリーが伸びています。買う人も増えていますが、平均売価も上がっており、大きな容量が買われていることが分ります。特に57位のビタミンB1B6B12主薬製剤は平均売価が111.3%伸びており、容量アップされています。
オーラルでは義歯用品とデンタル用品(歯間清掃具)が伸びており、これは先に述べたシニア層の購入額が伸びたことからもうかがえます。歯磨きは1人当たり数量が111.6%でまとめ買いされています。
食料品では軽減税率対象外のアルコールは駆け込み需要で大きく伸長しました。ビールやリキュール類はケース販売の比率が高まり、平均売価が大きく上昇しています。10位の紅茶ドリンクは新商品やタピオカミルクティーブームの影響で9月だけでなく好調が持続しています。40位のビネガードリンクは新商品が好調で、ドラッグストアらしい健康志向性の高い食品も引き続き好調です。
この表は売上金額前年比の降順でソートしていますが、逆に伸びなかったものもあります。タバコは増税対象でしたが、昨対89.1%と大きくダウンしました。タバコは値上げが何度か行われ、年々買上率ダウンが続いています。昨対では落ちていますが、8月対比では115%と伸びているので、買いだめは起きてはいます。但し伸びた要因は売価アップ(113%)でカートン買いが増えたためです。
このデータをどのように生かすのか、ですが今年は6月末にキャッシュレスポイント還元の終了が予定されており、再度の駆け込み購買が発生すると予測されます。その際、いつ頃から、どの性年代層が、どのカテゴリーの買い物を変えるのか(頻度が低いものを前倒しで買うのか、数量を増やすのか、売価の高いものを買うのか)についての仮説を立てるために利用することができるはずです。9月と6月で季節が違いますので、注意する必要はありますが、参考になると考えられます。
次回からはお客様のランク分けと優良顧客の育成をテーマに取り上げていきます。