コラム

IDPOSデータ活用入門第30回

コラム

「顧客のランク分け」

 今回は、お客様を購入実態に応じてランク分けをする「顧客ランク」について取り上げます。はじめに図1をご確認下さい。

 図1は某ドラッグストア様における2018年と2019年の顧客推移を記したものです。2018年来店者の16.7%は2019年に来店せず離反したお客様になります。
 離反する理由は第4回コラムでも取り上げたように、引っ越し、勤務先や病院の変更など行く理由が無くなった、家の近くに他の店ができた、お店で嫌なことがあった、何となく等様々な理由が考えられますが、毎年一定の割合で離反は発生します。そのため、前年と同じだけの人数を確保するには、必ず新規会員を取る必要があります。離反が多ければ多くの新規会員を獲得しなければならず、店舗の負担も高まります。離反が多い企業(店)では新規獲得の前に「離反者を減らす(出血を減らす)」ことを考える必要があります。業態や立地によって異なりますが、一般的に年間の離反率が20%を超えると特に注意が必要です。
 では、来店頂いている全てのお客様に一律で離反防止策を講じればよいのでしょうか?答えは「否」です。もともとお店への関与の低い方に対策しても得られる効果は低いので、お客様の店舗への関与度に応じて重点的に取り組むべき方を決め、限られた資源を投じるべきと考えられます。その際、顧客ランクの考え方を使います。
 離反者がいる一方、2019年来店者の17.5%は新規のお客様(2018年未来店者)で、逆数が継続者です。新規で入会頂いたお客様には、我が店に継続的に来店して頂きたいのですが、入会してくれれば、あとは自然とお店に慣れ、関与度が高まっていく、というものではありません。実は入会間もないタイミングでのお客様の関与度がその後も継続する傾向がある、ことが分っています。図2をご確認下さい。

 図2は2019年1-3月に入会頂いた方の期間中ランクとその後(4-12月)のランク推移を表した図になります。入会間もない1-3月にランクの高いお客様はその後のランクも高い傾向を維持しています。一方、入会時のランクが低いと、その後のランクも低く、そもそも来店しない方の割合も増大します。従って、入会直後の小売様への意識が高い最初のタイミングでの働きかけが非常に重要なのです。まさに「鉄は熱いうちに打て」です。そこで、お店の特徴(魅力は何か)や定例販促の曜日やイベントを紹介した手配りチラシを用意し、次回来店時にお使いいただけるクーポンのお渡しを行います。新規入会者は同じ曜日に来る率が高いので、毎週水曜日は××がお買い得をお知らせすることが有効です。
 新規のお客様を獲得したら、「お客様の育成」です。お客様の育成とは「お財布シェアを高める」活動を表します。HBC(ヘルス&ビューティケア)カテゴリーの年間世帯支出は約10万円といわれていますので、年間のHBCカテゴリー購入額の何%を我が店で買って頂いたかを表す数値がお財布シェアです。そこでまず、お客様を購入金額・来店頻度・粗利額などでランク分けした実態を把握し、顧客ランクに応じた対応策を実行して顧客育成につなげていきます。この時、かけられる資源は有限なので、我が店にとって大切なお客様を見極めるのに顧客ランク分けは有用です。
 また、ランク分け基準に応じた区分(優良顧客、準優良顧客、使い分け顧客、低関与客)ごとにその特性を把握する事でランクに応じて取るべき手を見出す事が出来ます。例えば準優良顧客を優良顧客に育成するには買い物行動(頻度、曜日時間)や買い物内容の違いを明らかにして、優良顧客へランクアップ頂くためにお勧めするカテゴリー、ブランド、販促策を見極めていくのです。
 図3は、一般的なドラッグストアにおけるランク分け基準及び某ドラッグストア様のランク別の状況を示しています。

 HBC年間世帯支出の半分以上に当たる6万円以上を優良顧客と定義すると、優良顧客は人数構成比で2割強を占め、この2割強のお客様で会員売上金額の67.0%を占めている事が分かります。上位の優良顧客で売上の大部分を占めている事がご理解頂けるかと思います。また、顧客ランク別の1回あたりの客単価と来店頻度を確認すると、頻度が大きくランクに影響をしている事が分かります。来店目的を増やし、来店頻度を上げることが顧客ランクアップに重要である事が読みとれます。
 次に、顧客ランク推移を確認します。図4は、2018年の金額ランク者の2019年の金額ランク推移を表した図になります。

 表をみると2018年ランクA顧客のうち、2019年もランクAを維持している方は66.5%です。ランク維持率はランクが上位になるほど高まりますが、ランクA顧客でも3分の1のお客様は翌年にランクダウンをしてしまうのです。このランクダウン者に対して、呼び戻し策を行うべきであると考えられます。このようにランク推移を確認する事で、ランク維持者・ダウン者・アップ者・離反者に分ける事が出来ますので、選択的にアプローチを行う事が可能となります。
 次回は、優良顧客層の特性について様々な角度から掘り下げていきたいと思います。