コラム

IDPOSデータ活用入門第33回

コラム

「優良顧客の離反対策」

 前回まで、優良顧客の重要性、購買行動から見た特性について述べてきました。第30回のコラム図4で示した通り、優良顧客の翌年継続来店率は平均に比べ非常に高いのですが、それでも店離れ、ランクダウンは一定の割合で発生します。この事例では人数比21%で売上金額比67%を占めていますので、優良顧客の店離れの影響は非常に大きく、優良顧客を離反させない仕組みを作ってから新規獲得に取り組むべきと考えられます。
 小売業の中には年間の購入額ランクに応じた特典を用意しているケースがあります。例えばドラッグストアで1年間に12万円以上購入頂いたお客様をゴールド顧客、24万円以上をプラチナ顧客として様々な特典(ポイント付与率アップや様々なサービスのご提供など)をご用意する、という考え方です。この場合2020年1月に2019年度のゴールド顧客のお客様を特定して今年度の特典をご案内する訳ですが、そのお客様の1月の購買状況を確認したのが図1になります。

 表から、2019年に年間で24万円以上購入している方でも1月に非来店が2.1%、またランク4-6にランクダウンした方を加えると4.6%のお客様は店離れの傾向を示していることになります。19年のランク1-3である優良顧客のうち、20年1月も同等ランクを維持しているのは68%に過ぎず、約1/3は非来店もしくはランクダウンしてしまうのです。つまり年間で翌年の特典ランクを確定するのは良いのですが、翌年の2月になってフォローしてもその時点では既に店離れしている可能性もあるということです。
 そこで小売業の業態に応じて優良顧客を定義する期間を決めてフォローを行います。一般的にスーパーマーケットでは毎月の購入額でランク分けして翌月のランク推移をチェックし、優良顧客に離反させないようにします。例えば2019年1月→2月のお客様のランク推移を3月初めに確認して必要であれば呼び戻しの手を打ちます。
 もう少し来店頻度が低いドラッグストアでは2ヶ月でランク分けして翌月(翌2ヶ月ではありません)のランク推移を確認します。2019年1-2月の2ヶ月でお客様のランクを分け、1-2月→3月の推移を4月初めに確認するのです。1-2月→3-4月の推移を5月初めに確認するのは遅すぎるためです(2月の終り頃から離反傾向のある方に5月になってアプローチしても戻って頂けない)。これを示したのが図2になります。

 1-2月にランク1だったお客様の3月のランクを見ると、非来店とランク4-6へのダウンが5.1%存在しています。費用対効果の面からフォローすべき対象は「ランク1-3のお客様で離反傾向にある方」と考えられますので、図2の黄緑で囲まれた会員となります。1-2月にランク1-3の人数を分母とすると約9.6%になります。このIDリストをPOSレジ(レシートクーポン)やアプリに流し込み、呼び戻しの販促を行います。お店に来なくなった方にはレシートクーポンを発券できませんので、アプリを使った個別販促もしくはDM出状が考えられます。DMはカード加入の際に住所をきちんと記入頂いており、DM出状の許可を頂いている場合に限られること、また郵券代などの費用がかかりますので、効果が見込める方に絞り込み、出状数と優待、クーポンの中身を決めていきます。ある期間にお買い物頂ければ××(ポイント2倍進呈など)と訴求するのが一般的ですが、対象期間が短かかったり、期間中1回のみでは響かないことも考えられます。期間を少し長めに取り、何度か使えるという工夫も必要です。
 優良顧客は自分の家の近くに競合店ができた場合でも、買い慣れた自店と競合店を使い分けてみて、競合店がよければ徐々に離反していく、のが一般的です。これに対し優良顧客が突然離反した場合には、お店で嫌なことがあった等の理由も考えられますので、経済的特典だけでなく、アンケート形式にして改善点をお聞きする、ことも有効です。優良顧客からの改善要望に真摯に対応することで離反率を下げることが可能です。
 DMを出した際に不達で戻ってきた場合、引っ越し等が考えられます。お引越しをされても自店のあるエリアであればアプローチ可能です。例えば、これまではA市の店舗を使っていたが、B市の店で買い物をし始めた場合、アプリやレシートクーポン等で
 「お引越し等でお店からの大切なお知らせが届かなくなっていませんか?その場合はアプリやネットから住所変更のお手続きをお願いします。住所変更頂いたお礼に…」
 のようにご案内することが考えられます。自店の無いエリアに引っ越されても貯めたポイントをECサイトでも利用できる、などとご案内して、大事なお客様との関係を保ち続けることも可能です。
 以上、優良顧客については自店での買い物がどのように変わったかについて1ヶ月ごとにトラッキングし離反防止の対策を打つ必要があることを述べてきました。
 
 次回はID-POS分析の定番メニュー、流入流出分析について取り上げます。