コラム

IDPOSデータ活用入門第34回

コラム

「流入流出分析①」

 今回から数回にわたり、流入流出分析について取り上げます。流入流出分析はその名の通り、購入者は「どこから流入」してきたのか、「どこへ流出」したのか、を分析する手法で、消費財メーカーでは日常的によく用いられています。一般的に、分析の軸はブランド、アイテムであることが多いです。ただ、カテゴリー(もしくはサブカテ)全体が不振でその需要がどこに移動したのかを知りたいときには、カテゴリー単位で流入流出を行うこともあります。例えば購入者が減っているガムはお菓子のどのカテゴリーに流出したのか、グミなのか錠菓なのか、を調べるケースなどがこれにあたります(ここでは説明しませんが、菓子カテゴリー以外のリラックス系も含めて分析を行います)。
 流入流出分析は主にどのような場合に用いるか、ですが、最も多いパターンは自社ブランド(例:A)が不振の場合、どの競合ブランド(BCD)に流出したのか?を調べる、というものです。18年にブランドAを買っていた方のうち、19年にブランドBを買った人が15%、Cを買った人が8%、Dを買った人が5%だったとすると、ブランドAからBに流出した…のようなレポートを見ることがあります。確かにブランドA→Bは15%ですが、これが流出と言っていいかどうかはこのデータだけでは言い切れません。17年から18年でのブランドA→B が15%であれば移行率は変わっていない、という結論になり、ブランドAが不振だとしたら、要因は他にある(新規が取れていない、ブランド継続者が減った、カテゴリーそのものの不振など)ということになります。
 ここからは柔軟剤カテゴリーのあるブランドの事例でご説明します。まず、図1をご覧下さい。

 今回取り上げるブランドAですが、対象期間(19年4-6月)の売上は不振で買上率の昨対は83.4%と大幅にダウンしています。ブランド別売上で第2位の主力ブランドですので影響が心配です。買上率がダウンしたのは、主力購買層である女性40-60代で昨対80%前後と大きくダウンしたことが響いています。この時、次に行う分析は何でしょうか?どのブランドに流出したのか?を調べるべきでしょうか?
 本コラムの第10回から13回にかけて買上率を伸ばすための5つの着眼点を説明しました。買上率が落ちた時に、どの性年代、セグメントで落ちたのか、に加えて、落ちたのは新規なのか継続なのかを掘り下げましょう、と紹介しました。ブランドAも流出先ブランドがどこかを分析する前に、新規・継続どちらが、(より)落ちたのかを分析します。図2をご覧ください。

 ブランドAの購入人数は83.4%ですが、これを過去3ヶ月間にブランドAを買っていなかった新規と買っていた継続、に分けると新規の昨対が78.3%、継続の昨対が90.8%となり、新規の獲得ができていないことが人数減の主因と考えられます。購入者の人数構成比は新規が56%で継続を上回っており、新規獲得が大切です。勿論、継続者が10%近く落ちているので流出先ブランドはどこかについての分析をこの後、行いますが、まずは新規を獲得するための活動が十分だったかの、振り返りが必要です。新規を獲得するためには、新規購入者がよく購入する「入口アイテム」が何かを分析して露出を強化したり、チラシ訴求する等、買って頂くための工夫が欠かせません。売れ筋の大容量アイテムばかりに注力すると新規が入りにくいことが考えられます。
 いよいよ、ブランドAの流出分析を行います。図3をご覧ください。

 分析期間は19年1-3月の各ブランド購入者が19年4-6月にどのブランドを購入したか、に設定しています。適切な期間設定はとても大切です。例えば、年間の購入頻度が2回以下のカテゴリーで1-3月→4-6月のように3ヶ月づつの流出を調べても1-3月購入者の内、4-6月に買っていない割合が高くなってしまいあまり意味がありません。柔軟剤の年間購入頻度は約4.5回ですので、3ヶ月づつでの流出が適切と考えられます。これに対して例えば、清涼飲料のように購入頻度が高い(年間で9回以上)カテゴリーでは3ヶ月は長過ぎ、1ヶ月が適切と考えられます。なお、この表は19年1-3月の購入者の多い順に大ブランドと機能タイプで表記しています。
 19年1-3月にブランドA(防臭タイプ)を購入した方の45.9%は4-6月に自ブランドを継続購入、移行先で最も高いのはブランドC(防臭タイプ)で9.7%、続いてブランドD(基本タイプ)で7.1%となっています。なお、これらの移行率には重複があることに注意ください。1-3月にブランドA(防臭タイプ)を買っていて、4-6月にもブランドA(防臭タイプ)を継続しつつ、ブランドC(防臭タイプ)も買っている、という人もいる可能性があります。そのためブランドの移行率を横に足し上げても100%にはなりません。
 この結果を見ると、ブランドA(防臭タイプ)の自ブランド継続率は全体で2位となっており、決して低い訳ではありません。但し、移行先として高い、ブランドC(防臭タイプ)の自ブランド継続率は56.1%と約10%高いため、こちらに移行すると定着してしまう可能性も考えられます。そして、コラムの冒頭で述べたように、移行率の9.7%が高いのかどうかは前年と比較しなければ分かりません。
 次回は今回の続き、流出分析のデータの読み方について取り上げます。