コラム

IDPOSデータ活用入門第37回

コラム

「コロナ禍による購買行動の変化」

今回は新型コロナ禍により生活者の購買行動にどのような変化が起きているかを取り上げます。経済産業省のHPには業態別動向の記述がありますので参考になさって下さい。
https://www.meti.go.jp/statistics/bigdata-statistics/bigdata_pj_2019/index.html

ここではドラッグストアの購買行動がどのように変化してきたか、について概要をまとめます。変化が起きる事象の代表的なものを記載し、それぞれの週に購買の因数分解がどのように変わったかを示したのが図1になります。

 各週の売上は、来店人数(ユニーク人数)×購入額/人週(頻度×客単価) で示すことができますが、2019年の週平均値を1とした指数で表記しています。19年の大きな変化として「増税」があるのでその前後週も載せています。19年平均と比べると、増税前駆け込み週は人数が大幅にアップし、増税週はその反動で大きくダウンしていることが分かります。そして増税前駆け込み週の来店人数を越えたのはコロナ禍でマスク不足が顕在化した1月末ではなく、紙の買い占め騒動が起きた2月末になります。5/11週は一部で緊急事態宣言解除の動きがあり、大分来店人数は落ち着いてきています。来店人数という面では、「無くなると困るものの在庫確保、備蓄ニーズ」のパワーが大きいことが分かります。
 来店人数を性年代で分解すると、増税週に前週に比べて大きくダウンしたのは女性60代以上であり、女性70代では前週の59%まで落ち込みました。シニア世代の生活防衛意識が高いことが伺えます。増税前駆け込み週よりも来店人数が増えた、紙の騒動週ですが、女性30-50代のファミリー層は増えていますが、女性70代以上は増えていません(増税前駆け込み週の90%に留まる)。シニア層が罹患すると重篤化しやすい等の報道があり、シニア層が買い物を控え始めその後も他の年代に比べると伸び悩んでいるのです。なお、5/11週には女性はすべての年代で前週よりも来店人数が増えています。
 何を買いに行っていたのか、昨年比でアップしたカテゴリーですが、1月からウィルス対策や予防アイテム(マスク、消毒液、除菌、ハンドソープ、体温計等)が一気に上がり、店頭から在庫がなくなり、マスクを求めて早朝から行列など様々なことが起きました。執筆時点(20年5/26)ではマスクと消毒薬は売れているもののピーク時に比べ在庫があるため落ち着いています。
 紙の騒動の際にはトイレットペーパー、ティッシュペーパーに加えて生理用品やベビーおむつ、おしりふきまで紙、不織布を用いたものは一斉に売れました。これらのカテゴリーの特徴は買上率が上がったこと、プラス1回の買い物での買上点数が上がったことで、供給が安定したタイミングでは家庭内在庫になっているのでは、と思われます。紙の騒動のタイミングで水や保存のきく食品を中心に売上が上がり、こちらも昨年より買上点数がアップ、備蓄されたと考えられます。翌週一斉休校の発表があり、子供が自宅にいることに伴う、昼食需要、おやつ等が一斉に上がりました。特に給食がないことに伴う昼食ニーズが顕著でした。更に外出自粛要請によって内食ニーズが一気に上がりました。ここまでは主に来るべき変化に備え在庫を確保する動きが中心でした。
 緊急事態宣言が出てテレワーク、ステイホームとなるとウィルス予防と在庫補充ニーズだけでなく、学校に行けず外で思い切り遊べない子供とどのように楽しく過ごすか、テレワークでは如何に自宅で効率的に業務を進めるか、更に掃除用品、DIYという、家で、家族皆で気持ちよく過ごすためのニーズが出てきました。一緒に菓子を手作りする製菓材料や玩具、家に飾る花などがアップしました。これらは従来買っていなかった人(または時期)に買われたもので買上率アップが売上アップの主因になっています。従来買っていなかったカテゴリーを初めて購入した新規の方には効果的な使い方、先輩ママからのアドバイスなどの情報提供が欠かせません。店頭に加えてデジタルでの個別選択的なアプローチが有効と考えられます。
 食品の中では乳酸菌を中心に免疫を高めるアイテムの売上が伸びています。これも成分の情報に加えてどのような調理、保存を行うと、より効果的に栄養を摂取できるか、などの情報発信が必要です。
 一方、来店人数増加によって売上が増えたカテゴリーばかりではなく、減ったカテゴリーもあります。その代表的なものが化粧品で、これは外出しない、また肌診断などの接客が行えないことによるものです。メイクアップ化粧品は緊急事態宣言、ステイホームとともに大きくダウンし、特に4月の口紅は前年比で4割を切るまでダウンしています(外出が減り、外出時もマスクを着用するため)。同様にUVケアとファンデーションもダウンしています。テレワークでも勿論、基礎化粧品は使用しますが、メイクの機会が減ることでメイク落としがダウンし、また洗顔、化粧水、美容液などの美類のうち、主に接客を通じて販売する高価格・高機能アイテムがダウンし大きな影響が出ています。これらは買上率ダウンと共に平均売価のダウンが起きたのです。他にも外出のための制汗剤、ストッキング、人に会う時の口臭予防もダウン、身だしなみを整えるアイテムは全体に落ち込んでいます。
 化粧品については宣言解除されたエリアでは徐々に回復しており、出遅れた季節商材を含め、一気にお客様をフォローする活動(三密を避けつつ)が大切です。こちらは次回のコラムで取り上げます。