コラム

IDPOSデータ活用入門第42回

コラム

「ID-POSデータを用いた施策の効果検証法」

 今回はID-POSデータの分析結果に基づいて実施した施策の効果検証について説明します。効果検証とは、予め設定したKPIに沿って
 ・施策を実施した前後で(季節性の高いものであれば、前年同期比で)
 ・施策を実施した店、しない店で
 ・ターゲットごとに
比較を行い、施策の効果が認められたかどうかを検証するプロセスのことです。今回は、「歯周病歯磨きブランドA(高価格帯)」の販売メーカーさんが、小売業さんに提案する、という事例で説明します。
 この歯磨きブランドAのID-POSデータからは以下のことが分かっているものとします。
 ①売上は微減であるが、買上率が95%とダウンしている
 ②買上率ダウンの要因は新規顧客を獲得できなかったことで、継続者は堅調、但し継続者も
  1回のみ購入の比率が高い
 ③新規顧客の年代は継続者と比べて5-10歳若いが、中心は60代、新規顧客の購入タイミング
  は年金支給日に合致している
 ④新規顧客はマイルドタイプやお試しサイズから入る
 ⑤新規顧客は部分入歯用義歯用品、歯間ブラシとの関連が高く、今ある歯を失うことや口臭を
  気にしている、と考えられる、また身だしなみ意識が高く、男性化粧品(養毛剤やスキン
  ケア)を購入している
 こうした分析結果から、下記の施策を提案しました。
 ①新規獲得が売上を上げるポイントになるため、新規顧客の入口になるアイテムを、購入意欲
  の高まる年金支給週のチラシで紹介する
 ②同じく年金支給日前後に、対象者が来店される午前中の時間に店内放送で商品の価値を
  紹介する
 ③義歯用品売り場(できれば部分用)の近くで、ブランドAお試しサイズを突き出し籠、
  もしくはサイドネットで展開する、「残存歯を大切にするために」のメッセージ
 ④男性化粧品(養毛剤売場)に口臭予防を伝える誘導POPをつけて、気付きを与える
 ⑤1回のみ購入者にレシートクーポンを発券、再購入頂くと50ポイントプレゼントする
 これらの提案を小売業(バイヤー)さんに受け入れて頂くにはそれぞれ、得られる効果を目標値として提示し、取り組む価値があると納得頂く必要があります。ブランドAの売り場を広げたり、チラシ掲載した場合、売上が上がるのはある意味、当たり前のことであり、「売上が◎%上がる」という目標だけでは適切な目標設定とは言えません。また、あれもこれも提案した場合、いったいどの施策で効果があったのか?の検証が難しくなります。そのため、提案の中で特に効果が見込めそうな3つ程度の施策に絞り、実施する店舗、実施しない店舗のグループ(コントロール店舗)に分けて検証を行っていきます。そして検証して効果が顕著な施策は実施店舗を広げ、効果が出なかった施策はその要因を掘り下げて改善点を明確にし、場合によっては再チャレンジとなるのです。いずれにしても物量のみの提案(売価を下げる、エンドで大々的に展開する、マネキンを入れる)では長続きしません。効果に加えてコスト面からも双方で継続しやすい・・・・・・施策を見極めるためにも効果検証は大切なのです。

 図1に効果検証のポイントをまとめていますので参考にして下さい。店舗と期間については述べましたが、対象範囲についても留意して下さい。ブランドA拡販の施策ですので、ブランドAの評価を行うのは当然ですが、ブランドAに取り組むことによって、カテゴリーの課題解決につながったのか?について、必ず検証します(小売業さんにとってはむしろこちらの検証がメインになります)。ブランドAの売上は伸びたが、カテゴリーの売上は伸びなかった場合、それは果たして成功と言えるのか?疑問です。少なくとも小売業さんにとって、施策の効果は見出せないことになり、単にブランドB購入者がブランドAにスイッチしただけではないのか?という質問に答える必要があります。この時、実施店グループのカテゴリー伸長率が非実施店グループの伸長率を上回っていれば、一定の効果があったと考えられます(ブランドAに取り組むことで、そうでない店に比べてカテゴリー売上ダウンを少し食い止めることができた)。逆の場合は、ブランドAに取り組んだことにより、どのブランドが落ちてしまったのか?を確認します。
 実施店グループ内でも店舗間に違いがあるときは、店頭実現状況のばらつきを確認します。実際にPOPは掲示されていたのか、クロス陳列はされていたのか、できれば店舗画像の情報と重ね合わせを行います。うまく行く事例も行かない事例も現場にその答えがあることが多いためです。
 
 次回以降はご質問の多い、元データの精度についての考え方を取り上げます。