コラム

IDPOSデータ活用入門第43回

コラム

「データ分析を行うために必要なデータ精度について」

 これまでID-POSデータの代表的な分析法について述べてきましたが、今回は大元のデータの精度をどのように考えるべきか、について取り上げます。データ分析を行うには「安定した」ID-POSデータが入手できることが前提になります。安定・・の意味ですが、以下の3点が特に重要です。筆者がデータ分析をお引き受けする際に必ずお聞きする点になります。
 ①全売上金額に占める会員売上金額の構成比
 例えばある店の全売上金額が100万円で、そのうち、会員(IDのついた)売上金額が70万円の時、全売上に占める会員売上の構成比は70%になります。この数値は小売業の業態や立地、また運営する会員制度によってまちまちで、生協やコストコのように組合員(会員)にならないと買い物できない場合には100%になります。
 最寄り業態の中では、来店頻度が高い業態ほど、会員売上の構成比は高くなります(頻繁に行くお店は会員になっておいた方がお得と考えるため)。ただ、同じ企業でも駅前繁華街立地の店舗の会員売上比率は50%、住宅街立地の店舗では70%というのはよくあるケースです。最寄り業態では売上に占める会員売上の比率として70%を目指したいところですが、経験上、60%あれば、有効な分析の入り口と考えられます。そこで新店では、早めに60%になるように会員を獲得していきます。筆者の知るスーパーマーケットで最もこの数値が高い店舗は97%に達しています。
 ②お客様の翌年継続率
 以前のコラムでも述べたように、ある年に来店されたお客様のうち、スーパーマーケットでは5~15%、ドラッグストアでは10~20%が翌年は非来店となります。これも業態(来店頻度)や立地、会員制度の魅力度によって異なりますが、翌年、離反される率が20%を越えると常に新規会員を獲得しなければならないことになります。
 また、実際にお客様は離反されていないのに、離反率が高くなってしまう要因の一つに、不充分なデータ運用管理の仕組みがあげられます。カードを紛失した、磁気不良で読めなくなった等の理由により、新しいカードが交付され、カード番号が変更されたのに、過去データを洗い替えていないケース等がこれにあたります。つまり会員番号300番のお客様のカードが再発行により400番になったのに、過去データはそのまま、というケースです。過去データを洗い替えないと300番、400番が別のお客様として扱われてしまい、300番のお客様は離反し、新たに400番の方が会員になったというデータになってしまいます。これによって、カテゴリーや商品のリピート率の数値なども全て影響を受けます。カードの紛失や磁気不良などは必ず発生するものですから、安定したデータの実現には新旧の番号を紐付けて、過去データを洗い替える必要があります。
 ③性年代と郵便番号情報の精度
 3点目は性年代と郵便番号の情報がどれだけ正確に把握できているか、になります。カードの申込書には生年月日の欄がありますが、必須項目でないと、記入されないお客様もいらっしゃいます。特に女性は実年齢を知られたくない?という傾向があり、生年は空欄で月日のみ記入されたり、お子様やペットの生年月日を記入されることもあります。また、住所に関しては個人を特定できる情報であり、個人情報保護から厳密な管理が必要です。以前はお客様にDMをお送りするために住所を必須にしているケースが多くありましたが、近年ではメールやアプリのPUSH通知などを用いてお客様にアプローチする方法が増えています。とはいえ、お客様がどの商圏から来店頂いているのかを把握するために郵便番号の情報を把握するケースはあります(これも最近ではスマホの位置情報等で代替することも増えています)。
 これまでの連載でも述べていますように、正確な性年代の把握はマーチャンダイジング、売場作りの改善に欠かせません。例えば、性年代の把握率が低いと、お店のある足元商圏には30代の方が多く住んでおられるのに、我が店では30代の来店者率が低いのはなぜか?そして、30代のお客様の支持を上げるためには、どのカテゴリー、ブランドを強化すればいいのか?など、最も基本的な数値も把握できないことになります。
 性年代の把握率はある期間に買い物されたお客様のユニーク人数のうち、15-89才の男女の占める割合を指します。勿論、90歳以上になっても元気に買い物に来てくださるお客様もいらっしゃいますが、そのカードを使って家族の方が買い物をされている可能性を考え、15-89才に設定しています。性年代の把握率ですがこれも70%以上を目指します。この数値が低いと、例えば30%の時に、その性年代情報に基づいてMDを考えることには大きなリスクがあります。筆者の知る限り、最寄り業態で最もこの数値が高い店舗は95%に達しています。95%という数値を得るには新規会員獲得の際、お客様に確実に記入頂く、現場の方の努力が欠かせません。そしてそれは性年代(や商圏)の情報はお店の運営にとって有益であると現場の方にご理解いただく、啓蒙活動が重要であることを意味しています。最近は申込用紙への記入ではなく、ネット上で必要な情報を入力できるケースが増えていますが、その場合には、生年月日と郵便番号の入力を必須とすることが考えられます。
 安定したID-POSデータ分析のために必要な3つの点は上記の通りとなります。次回は自店のID-POSデータの精度を数値化するためのシートをご紹介し、またこれもご質問の多い、ID-POSデータ活用上の留意点を取り上げます。