コラム

IDPOSデータ活用入門第44回

コラム

「自店ID-POSデータの精度を数値化する」

 前回は安定したID-POSデータを入手するための3つのポイントについて説明しました。これを数値化、見える化するための資料が、図1になります。

 ここでは8つの質問に答えて頂き、合計得点で評価を行います。特に重要な①④⑤については前回説明していますので、他を解説します。②は全売上金額に占める会員売上比率の店による違いですが、例えば、ある最寄り業態の企業Aで全店での比率は60%の時、①の点数は2点です。企業Aには2店あり、X店では75%、Y店では45%の場合、差が30%あるため、②の点数は1点になります。仮にXが住宅街立地でYが繁華街駅前立地だとしても、30%の差は大きく、Y店での会員化とお客様にカードを提示頂く取り組みは充分かについて確認し、会員の売上比率を少なくとも50%以上に高める必要があります。同じお客様が住宅街の店で買うものと、繁華街の店で買うものには違いがあり、曜日時間帯も含め、お客様の全行動を把握するために立地によらず、会員比率を高める努力が大切なのです。
 ③のアクティブ会員の比率ですが、これは会員マスタに登録された会員のユニーク人数のうち、  1年間に何らかのお買い上げがあった会員の割合を指します。会員マスタには100万人登録されていても、1年間に1円以上買い物をされた会員ユニーク人数が50万人の場合、アクティブ率は50%となります。公称100万人の会員であってもレシートクーポン等の施策で実際にアプローチできるのは半分に留まる、訳です。お客様は引っ越しなどの理由で物理的に来店できなくなることは勿論ありますが、そうした条件は変わらないのに、来店しなくなることのないよう、「会員であり続けることに魅力を感じて頂く」お客様重視の企業姿勢とそれを反映した施策が必要です。企業アプリもダウンロード数で競っていますが、アプリを使って買い物をして頂いたのか、クーポンをご利用頂いたのか、等アクティブ率は現実の稼働状況を知る上で重要な指標になります。
 ⑥はID-POSデータベースのデータ更新タイミングになります。これは小売業が自社データを取引先に開示する場合のチェックポイントの1つです。今日の購買情報を明日確認できるのか、1週間後なのか、では仮説検証のスピードが大きく変わってきます。期待の新商品を発売した際、売れ行きはどうか?を翌朝チェックして、ある店で売上が上がっていないとしたら、売場に並んでないのではないか?訪店して確認する、といった素早いアクションが可能になります。また、昨今のコロナ禍でお客様の行動が変化する時代、1週間前のデータに基づいて対策を検討しても遅過ぎる懸念があります。
 ⑦は商品分類の階層の深さを指し、それが分析を行う場合の粒度につながります。筆者が経験した最も粗い粒度では部門(スーパーマーケットであれば、野菜や精肉、ドラッグストアであれば医薬品や健康食品という単位)の下が単品という事例でした。この場合、好調、不調のカテゴリー、サブカテゴリーは何かを知るには、全ての単品を自分で仕分けて集計する必要があり、到底、分析には堪えません。例えば、ドラッグストアでビューティ→ビューティ雑貨→シーズン品→制汗防臭剤という階層の下に剤型別の階層(スプレー、ロールオン、シート等)が細分化されていると、剤型別のトライアル(シーズン1回目の購入)・タイミングの違いや購入者の違いを容易に分析することが可能になります。実際、制汗防臭剤は剤型によってトライアルのタイミングが異なっており、購入頻度が2回以下である現状から、最初に購入される剤型(ロールオン)から次の剤型に適切にリレーしていくことで、買上点数を上げることが可能です。
 ⑧についてはある単品が所属する分類を変更した場合に、過去データを洗い替える仕組みがあるかどうかです。⑦との関連でいうと、環境やお客様の行動変化、新商品の上市等により、今までになかった市場ができることがあります。これに合わせて新しいカテゴリー(やサブカテゴリー)が生まれるのですが、過去データも含めた整合性のある分類変更を行うかどうか、が⑧になります。他にも発売時点では、どの分類に所属するかはっきりせず、「××その他」に暫定的に分類したが、その後正しい分類に変更する場合や単純な分類間違いを修正した場合にも過去データを洗い替える運用を行っているかどうか、です。
 以上、8つの設問に回答し、25点満点中、何点になるかを現状として把握します。18点が標準点でこれを下回る場合、改善に向け、いつまでにどのような対策を打つかを検討します。会員売上比率やアクティブ会員比率は業態や店舗の立地に関係しますが、最寄り業態の繁華街立地以外で15点未満が続いている場合には、データ整備に課題があると言わざるを得ません。
 次回はデータ活用上の留意点をご説明し、コロナ禍での20年8月、お盆商戦の動向をご紹介します。