コラム

IDPOSデータ活用入門第46回

コラム

「ID-POSデータの応用分析(デンドログラム)」

 今回はID-POSデータを用いた応用分析の1つとしてCDTを紹介します。
 CDT(Consumer Decision Tree) は消費者(Consumer)の購買決定(Decision)要因を樹形図(Tree)の形で表現したものです。CDTは定性的な調査から導く(生活者に何と何が同じグループに属するか、を聞いて分けていく)こともできますが、ID-POSデータの併買分析からも作成が可能です。まずは図1をご覧下さい。

 これはオーラルケアカテゴリーのID-POSデータに基づいて描いたCDTです。樹形図で一番早く分かれているのは左端の「義歯用品(洗浄剤と安定剤)」であり、消費者の購買決定要因として入れ歯を使用しているかどうか、が最初の分岐であることが分かります。入れ歯でない人は次に「歯磨きと歯ブラシの基本的なケア中心」か、「高機能歯磨きや予防的なケア(洗口液やデンタル用品)を用いる」か、に分かれ、「基本ケア」はさらに「子供がいる」か、どうかで分かれています。「高機能歯磨きや予防ケア」も更に分かれていきます。消費者はオーラルケア売場ではこうした買い方をしているので、例えば、義歯用品が独立せず、売場内に点在していたり、歯間ブラシやフロスの隣に子供用歯ブラシが置いてあると探しづらく、買いにくい売場と感じると思われます(現実にそうした売場は見かけませんが)。CDTはお客様の買われ方からみた適切な売場のグルーピングを行う際に非常に有効です。それではどのようにCDTを描いているのか、図2でロジックを説明していますのでご覧ください。

 CDTの元になるデータはカテゴリー間の併買分析の結果です。図1の左上表にあるようにカテゴリー1の購入者は5万人です。この間の来店人数は10万人ですので、カテゴリー1の買上率は50%になります。そしてカテゴリー1購入者のうち、4万人が期間中にカテゴリー2を、3万人がカテゴリー3を購入していることから、左下表にあるようにカテゴリー間の併買率が算出されます。カテゴリー1購入者のカテゴリー2の併買率は80%(=4万人÷5万人)で、カテゴリー2の買上率は50%ですので、カテゴリー1購入者は、来店客がふつうにカテゴリー2を購入する1.6倍(=80%÷50%)、よくカテゴリー2を購入することが分かります。これはいわゆるリフト値(倍率)です。中下表はカテゴリー間のリフト値を表しているのです。CDTでは関係が強い者同士を近くに(隣接して)表現したいので、1÷リフト値 で逆数を算出します(右下表にあるようにカテゴリー1→カテゴリー2は1÷1.6で0.6となります)。この結果をそれぞれの交点が重ならないように樹形図に表すと右上のCDTが出来上がります。同様のプロセスでサブカテゴリー間の併買率を集計し、VMSやSPSS等のデータマイニングツールを用いて樹形図の形で表現したのが図1になります。
 図1の例ではサブカテゴリー単位でCDTを描きましたが、アイテム単位でCDTを描くこともよく行われます。しかし、歯ブラシのように色が違うとJAN(アイテム)が異なっている場合等は、アイテム数が多過ぎて意味のある読み込みが難しいことが考えられます。そこで消費者の購買要因が変わるのではないか?という属性・・に絞ってアイテムに名称を付与することが行われます。例えば、歯ブラシであれば「ブランド名、剤型、大人/子供用、硬さ、ヘッドの大きさ」からなる名前を付けてCDTを描くと、どの属性によって購買が分かれるのか?を読み込むのが分かり易くなります。一般的にはまず、ブランドで分かれますが、その先は剤型(一般、電動、携帯用)、ブラシ部分の硬さ(かため、普通、柔らかめ)、ヘッドの大きさ(大きい、普通、コンパクト)のいずれが先に分岐するのか?によって購買決定要因、即ち売場の作り方が変わります。色々な属性を付与したくなりますが、一般的に100種類を越えると読み込みが難しくなりますので、注意が必要です(100行以上のデータをA3に印刷して読み込むことを考えて見て下さい)。種類を絞り込む際には購入人数(買上率)が一定以上のものだけにする、等の工夫をして下さい。
 CDTは一般的には毎年作り直しますが、消費者の行動に大きな変化があった場合(増税や昨今のコロナ禍がこれに当たります)や大型の新商品が上市された場合、また新たな属性を付与すべきと判断した場合には年度の更新を待たずに再作成します。
 次回は、CDTと同様の考え方で作成しますが、より視覚的な表現法であるMDS分析をご紹介します。