コラム

IDPOSデータ活用入門第47回

コラム

「ID-POSデータの応用分析(MDS)」

 前回のCDTに続き、ID-POSデータを用いた応用分析の1つとしてMDSを紹介します。
 MDS(Multi-dimensional Scaling) は多次元尺度(構成)法のことで、各要素(商品カテゴリー、ブランド、単品)間の関連性・類似性の強さを2次元の距離で表す手法です。ここではID-POSデータの併買分析から作成したMDSについてご説明します。まずは図1をご覧下さい。

 これはドラッグストア全体の買い回りを示すものですが、特に嗜好飲料(コーヒー、紅茶、日本茶、ココア、甘酒などその他)に着目して作成しています。各カテゴリーの流入流出データを加工して、カテゴリー間の距離を計算し、二次元にマッピングしています。注意頂きたいのはX軸、Y軸には意味がないことで、要素間の距離が近いか遠いか、にのみ注目してください。
 まず気付くのは、「化粧品」「食品(飲料、菓子、加工食品等)」は比較的固まっていることです。但し、化粧品の中で白髪用カラーリング剤はぽつんと離れた場所に位置付けられています。実際の売場はシャンプーの近くに配置されていますが、他の化粧品との買い回りは起きていないことが分かります。
 「医薬品」は少し間延びしていますが、外用消炎鎮痛とミニドリンク剤、風邪薬とビタミンC、鼻炎薬と解熱鎮痛薬は近い距離にあります。医薬品の中で買上率の高い目薬に最も近いのは衛生医療の「肩こり腰痛ケア用品」で代表的な商品は「ピップエレキバン」や「せんねん灸」になります。疲れ目と肩こり(の悪循環)に悩んでおられるお客様が想像できます(筆者がまさにそうです…)。
 さて、嗜好飲料は同じ売場に配置されていますが、紅茶とその他嗜好飲料(甘酒など)はかなり離れています。コーヒーの中で、インスタントコーヒーとレギュラーコーヒーは近い位置にあります。これはどちらか一方だけでなく両方を買う人が多いことを示しています。また、レギュラーコーヒーに用いるペーパーフィルターはインスタントコーヒーの方が少し近い位置にあるのが面白い点です(購入者の多いインスタントコーヒーを買いに来た方が、ペーパーフィルターに気づいて購入している)。食品飲料のコーヒードリンクは嗜好飲料の中ではインスタントコーヒーに近いですが、日本茶麦茶ドリンクと嗜好飲料の日本茶(茶葉)は離れており、あまり買い回りが起きていないことが分かります(ペットボトルで簡便にお茶飲料を飲むことと茶葉やティーバッグからお茶を淹れて飲むことは異なる)。
 お菓子との組合せではレギュラーコーヒーはチョコレートとインスタントコーヒーはビスケットクッキーに近いことが分かります。最近はレギュラーコーヒーの風味にあったお勧めチョコを提案しているお店もありますが、こうした提案を進める裏付けはお客様の併買データかもしれません。この時、よく併買される組合せを調べて、レギュラーコーヒー売場でお勧めをすると点数アップにつながる可能性があります。
 お酒もずっと売上が伸びているリキュール類はスポーツドリンクやカップ麺、米菓に近く、比較的若年の男性が購入層として浮かびますが、焼酎(乙類)は猫フードや大人用おむつに近く、お酒の種類によって購入年代層と買い回りの違い、を表しています。
 このようお客様の買い物からみたくくり、まとまりを示すMDSを売場のレイアウトやゾーニングと重ね合わせると、買い物のし易さ、売場の連動性を評価することができます。そのためMDSは全店で作成するというよりも、エリア単位または個店ごとに作成するのが一般的です。図1のMDSはそうではないですが、例えば「ベビー用品」「シニア用品」が他のカテゴリーと離れて独立して存在するケースがあります。これはベビー用品であれば、ベビーおむつや育児ミルクなど来店目的のカテゴリーを購入すると他のカテゴリーを買い回らずに帰ってしまうことを指しています。子育てママに必要なものがベビー用品の近くに配置されておらず、子育てママへの生活提案が不十分な場合にこうしたことが起こりえます。
 MDSはカテゴリー単位で書くこともできますが、もっと細かく、例えば、シャンプーカテゴリーのブランド別、或いは単品別に作成することもできます。これによって「オーガニック」「ダメージ」「香り」「エイジング」「ファミリー」のような売場のくくり(棚割り)とお客様の買い回りがあっているのかを確認したり、ブランドAとブランドBは隣接させるべき(お客様から見て距離が近い)、1-2回分のお試し品は各ブランド内にあった方がいいのか、お試し品としてまとめた方がいいのか、などの気付きを得ることができます。
 MDSの元になるデータはCDTと同様で要素(カテゴリー、ブランド、アイテム)間の併買分析の結果になります。樹形図の形で表現されるCDTよりも、ひとめみた時の理解度が高いのが特徴です。MDSも一般的には毎年作り直しますが、消費者の行動に大きな変化があった場合(増税や昨今のコロナ禍がこれに当たります)には年度の更新を待たずに再作成します。詳しくは述べませんが、コロナ禍にあって来店目的となっているマスクや消毒、除菌カテゴリーの位置は去年とは大きく変わりました。
 この連載も入門編はあと数回になります。次回は、総まとめとして、ID-POSデータを用いて小売業へ提案する際のポイントをご説明いたします。