コラム

IDPOSデータ活用入門第48回

コラム

「ID-POSデータを活用して小売業に提案するポイント」

 今回はこれまで説明してきたID-POSデータ活用の総まとめとして、小売業の取引先(卸売、メーカー等)が小売業に提案を行う際にご留意頂きたいポイントをご説明します。まずは図1をご覧下さい。

 この表では左側に「陥りやすい従来の考え方」、右側に「目指してほしいあるべき姿」を対比してまとめています。まずは、陥りやすいアプローチを説明します。取引先営業マンは小売業バイヤーに対し、自ブランドの新規導入や既存品の拡売提案を行いますが、自ブランドの製品としての機能的な特徴(スペック)、競合ブランドに対する優位性を説明し、新商品の場合は広告出稿量(××GRP)が多いことや、導入時の販促支援を説明して新規導入を働きかけます。既存商品を強化したい場合は競合ブランドの割り当てスペースを減らして自ブランドのスペースを広げる、或いは自ブランドを優位置に置く、エンドに展開して露出を上げるなどを提案し、こちらも短期的な販促支援策をセットで提案します。
 商品が機能的に優れている点については詳しく説明しますが、購入者がどんな方で商品の持つどのような特徴に価値を感じているのか、といったお客様の視点や、そもそも自ブランドが所属する小売業カテゴリーの課題は何か?についてはあまり語られることはありません。
 提案が受け入れられて自ブランドの新規導入やスペース拡大がなされても、うまくいったのかどうか、その効果検証は自ブランドの売上が上がった、ことが中心になります。一般的にあるブランドの割り当てスペースを拡大したり、エンド展開すれば、そのブランドの売上が上がるのは当然であり、小売業(バイヤー)側はそれによって自社のカテゴリー課題が解決できたのか?を知りたい訳ですが、自ブランド中心のアプローチでは大きな成果につながらないことがままあります。スペースを減らされた競合ブランドからのスイッチは得られても、カテゴリー新規を獲得することが難しいからです。この場合、競合ブランドの営業マンは失った売上を取り戻すためのカウンター営業(やられたらやり返す?)を行う訳で、こうした1が1になる考え方ではカテゴリーの売上が拡大する見込みはありません。
 従来の考え方の課題は2点、小売業のカテゴリー課題を把握していないこと、そして買い続けて頂くための購入者の視点がないこと、です。そこで、図1の右側にあるように考えていきます。
 まずは提案目的を小売業のカテゴリー課題の解決におきます。カテゴリー売上不振の要因が買上率ダウンであれば、買上率アップのための提案がメインになります。以前のコラムで説明したように買上率がダウンしている場合は、新規、継続のどちらが落ちているのか、どの性年代(セグメント)の買上率が落ちているのかを掘り下げて課題を設定します。
 また、買上率はアップもしくは横ばいだが、購入頻度が減っている、或いは1回の買上点数が下がっていれば、その課題解決の方策を考えます。そして、小売業の課題解決と自ブランドの特徴を結び付け、自ブランドを強化することで小売業のカテゴリー課題の解決を図る、という提案シナリオを作っていきます。対象カテゴリー買上率が下がっていて、それは構成比の高い「若年層の不振による」ためだとしたら、自ブランドは若年層に支持されていることを示す、また、「新規購入者が減っていることによる不振」だとしたら、自ブランドは新規購入者が最初に買う、新規の入り口になっていることを示す、というように考えます。但し、繰り返しになりますが、競合品からのスイッチではなく、来店しているのに、そのカテゴリーを買っていない人に買ってもらう、いわゆるカテゴリー新規獲得策が重要です。自ブランドは若年に支持されているから、自ブランドのスペースを広げましょう、ではなく、今は買っていない(売場に来ていない)若年層を売場に誘引し、購買につなげる施策が必要です。
 カテゴリー課題を解決するためには、自ブランド購買者を新たに獲得し、リピート購買頂く、一連の流れを策定します。自ブランドによってカテゴリー新規を獲得し、育成していくので、短期的な施策だけではなく、少なくとも中期的な取り組みになるはずです。ここでは年間計画と書いていますが、どのタイミングで新規を取り、いつ2回目リピート購入頂き、更に3回目で定着頂くのか、になります。
 そして施策を実施するにあたり効果検証を行うための目標とKPI(カテゴリー売上や粗利の前年或いは前期間比、カテゴリー買上率、カテゴリー新規率、性年代別買上率など)を設定します。施策実施後は必ず施策ごとに検証し、うまくいったことは水平展開、うまくいかなかったことは要因を分析して次回提案に活かす、という「答え合わせ」を行います。
 以上がID-POSデータを用いて小売業のファンを育てる考え方になります。
 2年近く、ご購読いただいた「ID-POSデータ活用入門」もこれをもって本編はいったん終了いたします。次回は連載中に頂いたご質問の回答と、来年開始予定の応用編のご紹介を行います。