コラム

IDPOSデータ活用入門第49回

コラム

「2020年10月、風邪薬の動向」

 2年近く、ご購読いただいた「ID-POSデータ活用入門」ですが、本編は前回でいったん終了いたしました。今回は連載中に頂いたご質問を取り上げる予定でしたが、コロナ禍でドラッグストアにおける風邪薬の動向について知りたいとの、お声が寄せられましたので、20年9-10月の動向をご説明します。まずは図1をご覧下さい。

 上段には20年8/31(月)~11/1(日)、9週間の風邪薬カテゴリーの因数分解を示しています。売上は前年同期比で67.5%とシーズン序盤とはいえ非常に厳しい状況です。売上大幅ダウンの主因は買上率の低下(66.6%)にあり、1人当たりの購入数量は106.7%で比較的堅調です。買上率ダウンの時は、どの性年代が不振なのかを調べますが、特に女性のファミリー層のダウンが顕著で女性40~50代では60%を下回っていることが分かります。男女とも70代以上は80%程度に留まっており、女性30代も73%で厳しい数値ではあるものの、ファミリー層が特に課題であることが分かります。シニア層は新型コロナに罹患すると重篤化し易いとの報道から、外出を控え、病院の受診や介護施設への通所を減らしている、とされていました。病院の受診を控え、予防的に風邪薬を購入しているのかもしれません。ここには載せませんが、単品別ではシニア層が良く購入するアイテム(ロングセラーで容量の多いファミリータイプ)や葛根湯の錠剤タイプの売上は比較的堅調です。
 下段は風邪薬のサブカテである、「子供用の風邪薬」を示しています。売上は87.7%と不振ではありますが、風邪薬AL Lよりはよく、性年代別買上率を見ると男女とも20-30代は100%を越えており好調です。若年男女はコロナ禍を避けるために子供を病院に連れて行くのを控え、子供用の風邪薬を買っていると思われます。19年シーズンまではファミリータイプの風邪薬を購入する方に子供用風邪薬の購入をお勧めしていましたが、今年は子供用を買いに来られた方に家族で風邪予防の大切さを訴求すべきと考えられます。
 風邪薬の購入頻度はシーズン中2回以下ですので、過去のコラムでもシーズン1回目を我が店で購入頂くことが特に大事であると説明してきました。その、シーズン1回目=トライアルの動向を図1で確認すると、少しづつトライアルは伸びてはいますが、19年のようにある週にトライアルが跳ねる、という現象が見られません。19年は10月からの増税を受けて9月末に駆け込み需要がありましたので凸凹がありますが、それでも10月中旬、11月初旬にはトライアルが跳ねています。風邪薬のトライアルと相関が高いのは最低気温で、急に寒くなり、風邪をひいてしまった、或いは引く前に予防しようとして購入されると考えられます。例年、わずかな気温の変化に敏感なシニア層の出足が早いのですが、今年はコロナ禍でマスク、うがい手洗いなど予防に留意していることと、インフルエンザの予防接種もシニアと子供を中心に早めの接種を勧めていることから、これまでのところ、市販薬への反応が低いのではないか、と思われます。風邪薬は秋冬シーズン品の中心的な存在で売上に与える影響が大きいため、寒くなったから売れるだろう、ということではなく、コロナ禍でのお客様のお悩み、心理を踏まえたメッセージを出していく必要があります。この時、買上率がダウンしている=売場に行っていない、と考えられるため、店内放送やレジ前での気付き、またアプリ等を用いた外海(店外)からの誘導が欠かせません。
 先ほど、シニア層に支持の高い葛根湯の「錠剤」は堅調と述べましたが、同じ葛根湯でも「液剤」タイプは厳しい状況です。葛根湯「液剤」購入者の12%は同時に他の風邪薬を購入していますが、そもそも一緒に買われる風邪薬が不調なため、プラスワンで買われる液剤も不調なのです。同じ葛根湯でも剤型によって客層や買われ方が異なり、好不調が分かれているのです。このように、生活者の行動が分かれると思われる場合は単品に属性を付与して、因数分解、性年代別買上率、トライアルリピート率などの分析を分けて行うことが必要です。
 Withコロナの今、お客様の行動は大きく変化しています。去年と同じアイテムを同じタイミング、同じ施策で訴求しても響かない可能性もあります。常に最新のカテゴリー動向を確認し、できれば、買わなくなった人に調査を行うことでお客様に寄り添った提案を心がけたいところです。
 次回は連載中に頂いた代表的なご質問について回答を行います。