コラム

IDPOSデータ活用入門第50回

コラム

「連載期間中のご質問①」

 今週から連載中に頂いたご質問をいくつか取り上げます。初回の質問は飲料メーカー様からで、「あるブランドを値上げした際にお客様の支持が変わったのか、についてどのように分析すべきか?を知りたい」というものです。値上げにも色々な種類があり、原材料の高騰などの理由で商品そのものは特に変えず、単に売価のみ変更する場合と、商品の価値に知覚し易い変化があり、それに伴って値上げする場合では分析仕様が異なります。図1に共通の流れをまとめましたのでご覧ください。

 まずは売上の変化を人数視点での「因数分解」で確認します。値上げ前の2週間、値上げ後の2週間、値上げ後2週間の前年、の3期間に分け、データを取り、比較します。この例は飲料ですので、2週間に設定していますが、対象品の消費サイクルを踏まえて、適切な期間設定を行います。使い切るのに1ヶ月の商品を値上げ後2週間で分析するのは、顧客の行動変化ではなく、POS的な売上数量の実態把握(速報)に留まります。売上を評価する際には、値上げによって扱い店舗数(配荷率)に変化があったのか、について注意が必要です。値上げによって配荷率がダウンした場合、配荷されなくなったお店の顧客は買うことができない訳で、配荷率の回復が第一優先になります。
 値上げ前後で売上がダウンしている場合はもちろんですが、売上は変わらない、もしくは微増の場合でも、売価は上がっているはずですので、買上率もしくは1人当たりの購入数量に変化(ダウン)が起きていると考えられます。買上率がダウンしたのであれば、本コラムで何度も説明したように、「どの性年代でダウンしたのか」「新規/継続の比率はどうか、そして新規が落ちたのか、継続が落ちたのか」を調べていきます。
 新規の構成比が比較的高い商品で、肝心の新規が落ちた場合、新規を獲得する施策をとります。商品の価値変化を伴う値上げの場合、商品の価値をお伝えする、単なる値上げの場合、新規の入り口になるアイテムにボーナスポイントを付与して新規購買の背中を押すことなどが考えられます。
 一方、継続が落ちた場合、値上げ前購入者の流出先はどこか、また流出したのはどの量層か(関与度が高いのか低いのか)を掘り下げます。例えば、毎週購入者をヘビーユーザ層と定義した場合、2週にわたって購入しないということは、流出リスク有と考えられます。ヘビーユーザ層の流出は一大事ですので、完全流出する前に呼び戻しの施策を打つべきです。流出先が競合ブランドであれば、呼び戻し策も考えられますが、カテゴリーからの流出(カテゴリーアウト)の場合は、小売業にとっても大きなマイナスですので、協働してカテゴリーを再活性化する策を提案すべきと考えられます。
 もう1点、注意したいのは値上げしても、新規で購入する顧客が必ずいるということです。値上げに気づかない、売価にこだわりの低い層、の可能性もありますし、商品の価値変化を伴う値上げであれば、それを好意的に受け入れた可能性も考えられます。例えば、商品の容器を脱プラスティックにした、抗菌機能を高めた、という場合、その要素を評価して以前より売価が高くても新たに購入したのでは、ということです。この場合、獲得した新規顧客が、次の期間で定着したかどうかを分析し、その見極めを行います。
 この事例は自ブランドの値上げ、に対する顧客の変化を分析していますが、競合ブランドの値上げでも基本的な考え方は同じです。ただ、競合ブランドが値上げしたことで自ブランドへ流入が増えたのか、流入した層はどの層か(性年代、量層)というように、視点が逆になるだけです。カテゴリーによりますが、食品では同じブランドでは飽きてしまう、新商品を試したい、などの理由で特定ブランドにこだわらない顧客は一定数存在し、ブランド間を行き来、新しいものを探しています。そこで競合ブランドの値上げをきっかけに自ブランドへの流入が増えたのか、については前の期間(もしくは前年)と比較する必要があります。流入率が明確に増えていれば、自ブランドへの定着を図る機会と言えます。
 同様に「生活応援」等の目的で小売業のPB商品が値下げになるケースもありますが、それによって起きる行動変容の分析も基本的には同じ流れになります。この場合、どの程度、売価差が開くと自ブランドを含むNB品からPB商品への移行が起きるのか、という意味で貴重な実態データを得ることができます。
 以上、ブランド(商品)を値上げした場合にどのような分析を行うべきかについて、基本的な点を解説しました。次回も引き続き、連載中に頂いたご質問について回答を行います。